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2010/08/27発行 ジャピオン掲載記事
阪本啓一

阪本啓一
■ブランディング・コンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立、渡米し、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役会長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。『祝福を受けた不安』『ゆるみ力』『気づいた人はうまくいく!』『HOPE!』などの著書・訳書、講演活動も多数。www.joywow.jp

海外に暮らすメリット
こんにちは! 阪本啓一です。
皆さんは恵まれています。


言葉を磨く
 
 某企業の新人研修講師をしました。200人もの若いキラキラした瞳に見つめられながら話していると、彼らの希望や夢が一つの大きなパワーになって押し寄せてくる感じがして、とても元気をもらいました。彼ら若いビジネスパーソンに強調したことは「感性を豊かにしてほしい」という点。学生時代は「どれだけ賢くなるか」に焦点を当てていたかもしれないけれど、社会人になったら、頭脳もさることながら、いかに感情の襞(ひだ)を増やすか、いかに想像力の翼を広げられるかが、ポイントになります。
 製薬会社を例にとってみます。商品は当然ながら薬です。しかし、単に製品としての薬を売っているのではない、薬の向こう側にあるもの、それはすなわち、病気を治したい患者さんと、その家族の気持ちへのケア、癒やしを販売しているのです。そしてこのような想像力を豊かにするために必要な力は、日本語力なのです。日本語の語彙(ごい)数を増やす、言葉の空気感を磨く、相手の言っているニュアンスを的確につかみ、自分の伝えたい内容を過不足なく表現できる力。これらが感情のシワを増やし、感性を豊かにしてくれるのです。
 
羅針盤
 
 私自身、ニューヨークで暮らした経験から申し上げて、海外で暮らすことのメリットの一つは、「日本語が乱れない」ことが挙げられます。自分が使う日本語は、いわば自分が自分である羅針盤。現代日本に暮らしていると、情報はケータイやインターネットなどで簡単に入ってきます。その気になれば、電車に乗っている間もワンセグでテレビニュースを見ることさえ可能です。
 しかし、ここが曲者でして、あまりに多い情報量、しかもその品質があまりに玉石混淆(優劣の区別なく入り混じっているさま)で、ついつい、知らぬ間に、肝心要の羅針盤たる日本語が乱れてしまいます。ところが海外で暮らしていると、そのような、まるで激流に飲み込まれてしまうかのような情報洪水に遭わずに済みます。ニューヨークやロサンゼルスで長く生活しておられる日本人や日系の方と話していると、その美しい、きちんとした日本語にホッとすることがあります。
 
絶対浮力と相対浮力
 
 おわんを海に浮かべてみます。上手にソッと置けば、ひょっとするとしばらくは浮いているかもしれません。しかし、ちょっと波が来ればたちまちのうちにひっくり返り、沈んでしまいます。片やゴムボールではどうでしょう。ボールは自分に浮力がありますから、いくら波が来ようと、ずっと浮かんでいます。このように、自身に浮力のあることを絶対浮力、おわんのように、自分にはなくて、手で支えてもらわなければ沈んでしまうことを相対浮力と呼びましょう。
 ビジネスパーソンにとっての絶対浮力とは、互恵(人にお役立ちできる)能力、問題解決能力、本物の人脈など、要するに、たった一人で世間に放り出されても生き抜いていける力です。海外生活の場合、これに外国語能力も入るでしょう。相対浮力は、学歴、所属企業、出自、役職、免許、資格、容姿、財産によって決定されるものです。つまり、「泡沫(うたかた)の力」です。海外生活するメリットは、相対浮力からフリーになれることです。ニューヨークやロサンゼルスでビジネスするのに、「英検一級持ってます」(資格)、「東大出ています」(学歴)と言ったところで、目の前のアメリカ人と腹を割ったコミュニケーションができなければ、商談の一つもまとめられないでしょう。
 
古典を読む
 
 冒頭の新人研修で、彼らが感性を豊かにするために私がおすすめしたのは、古典の読書です。古典といっても、あまりに古過ぎない、漱石あたりが最適です。漱石でも『坊つちゃん』『三四郎』『夢十夜』が良いと思います。『吾輩は猫である』は、見た目はやさしそうですが、実は相当に奥深い内容なので、初心者にはおすすめできません。漱石はいきいきした日本語を学ぶのに最適のテキストです。私はニューヨーク時代、マンハッタンの夜景を背景に『夢十夜』を読み、不思議にぴったりはまることに驚いた経験があります。ロサンゼルスのマリナ・デル・レイのカフェで読む『坊つちゃん』はまた格別でしょう。
 美しい日本語に触れ、自分でも普段使いの言葉に気をつける。これが、動じない絶対浮力を身につける秘訣と思います。
書き下ろし 阪本おすすめ本

1987年より、「毎日1冊ビジネス書を読む」ことを自らに課している“ビジネス書の目利き”阪本啓一が、おすすめ本を紹介!

『退屈力』
(齋藤孝/文春新書)
現代はスキマ時間を埋めるビジネスが盛んだ。ケータイゲーム、ツイッターなど。電車の待ち時間、乗っている時間、すべて液晶画面に向き合って退屈しない。電車内に限らず家でも、学校でも、スキマがない。これは思考を鍛えるのに悪い環境だと著者は言う。私も同感。読書は丁寧に文字とページを追っていく時間。退屈かもしれない。この、読書ができない子どもが増えている。退屈力こそ今、一番必要な力だ。

『ビジネスを育てる』
(ポール・ホーケン、阪本啓一訳/バジリコ)
世界200万人が読んだ名作。著者自身成功した起業家なので、説得力がある。「起業家精神というものは、つまるところ、ビジネスの専門家になることなんかではないのです。あなた自身の専門家になり、生来持っている特別でユニークな資質を思う存分発揮し、アイデア、製品、サービスとして世界に表現する。これがかなえば、成功は約束されたも同然です」ビジネスは自分自身を表現するアートだ。

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