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当コラムでは、食ビジネス戦略のスペシャリスト、釣島健太郎が米国食ビジネスを現在、過去とさまざまな観点から検証。その先の未来へのヒントやきっかけを提示していく。
「バランス良く食べなさい」。小さい頃から両親にそのように言われて育ってこなかっただろうか。日本では小学校に給食があり、給食を食べる時にその食事のカロリーや栄養がそれとなく説明されていた。また、給食の職員の方々が一生懸命作っている様子を校内で見てきた。そんな環境で育ってきたのでバランス良く食べることを感覚的に学んできたと感じている。
一方アメリカでは、公立学校では一般的に給食制度がなく(ニューヨーク市のように一部地域や対象者に配布されるプログラムなどはある)、多くの場合は適切な食育を受けないで育っているのでないかと感じることがある。
私はニュージャージー州在住だが、私の子供たちは妻のお弁当がみんなの注目の的だと言う。バランス良く食べること、彩りをそろえることを潜在的に理解していて、それをお弁当に詰めることが自然と身に付いている。お友達のランチはベーグルにバターのみ、パンとターキーだけでほぼ毎日同じもの、という子もいるようだ。
あくまでわが家からの視点であるが、日本人として育ってきた中でバランス良く食べることに関しては一般的なアメリカの家族よりも随分意識が高いと感じることが多い。私の子供たちは「お友達の親は何でも食べさせてくれるのにパパとママはなぜそんなにうるさいの?」とたまに愚痴をこぼすこともあるが、日本人が食育、食文化に関して洗練された意識を持っている証とも言えるだろう。
変わる米国人の食意識
しかしこのような状況もこれから大きく変わり、アメリカでも日本人以上にバランス良く食べる食文化が生まれる兆しがある。「サラダチェーン」がビジネスとしてその産声を上げているからだ。
日本でもアメリカでもサラダは前菜、副食だ。料理の名脇役ともいえる。アメリカのサラダの歴史をたどると、1920年代にできたシーザーサラダ(ロメインレタスとクルトンにパルメザンチーズ入りドレッシングを合わせたもの)、60年代から家庭で振る舞われるようになったゼリーサラダ(60年代頃から人気になった甘いゼリーに野菜をまぶしたもの)、そして80年代に登場したレストランで自由にサラダを食べられるサラダバーなどがある。
そんなサラダであるが、2000年前半からサラダを主食のように取り扱うチェーン店が全米にオープンし始め、20年経った今、いよいよその存在感が増しているのである。
「サラダチェーン」と呼ばれるこのカテゴリーの特徴は、サラダがメニューの中心であることだ。自分が欲しい食材を項目ごとに選んでいく方式(大手サンドイッチチェーンのサブウェー方式)だが、一番最初に選ぶのはパンでもたんぱく質でもなく、リーフ野菜(レタス、ケール、アルグラなど)である。リーフ野菜がボールの中心になり、そこにニンジン、ズッキーニ、ビートなどの野菜をさらに加える。次に炭水化物のお米にたんぱく質(鶏肉、サーモン、豆腐など)を選び、最後にソースを選ぶ流れだ。
一食当たりでだいたい500カロリーに抑えられ、サラダといってもお米やたんぱく質もしっかり入っているので食べ応えがあり、十分お腹が満たされる。わが家ではアメリカ国内旅行の際、油もので疲れた胃を休ませるのに最後はサラダチェーン店で済ませることもある。
急増するチェーン店
このサラダチェーンの最大手と言われているのが「sweetgreen(スイートグリーン)」で、現在全米で160店舗ほどを展開している。次が「Saladworks(サラダワークス)」で110店舗ほど展開している。この他にも「Chopt(チョップト)」、「Just Salad(ジャストサラダ)」などさまざまなチェーン店が増えており、現在全米で合計500店舗ほどのサラダチェーン店があると考えられている。よりバランス良く、ヘルシーに食べたいという需要がアメリカで日々増えている証拠であろう。
冒頭で述べた、現在ランチにベーグルとバターしか食べない子供たちも日々サラダチェーン店を目にして耳にするようになれば、自分の子供たちには「バランス良く食べなさい!」と言い、サラダがダイエットの中心になるとしたらどうであろうか。その時、サラダは名脇役としての役割を終えて、料理の主役として認められたと言えるのかもしれない。
釣島健太郎
Canvas Creative Group代表
食ビジネスを中心とした戦略コンサルティング会社Canvas Creative Group社長。
「食ビジネスの新たな未来を創造する」をコンセプトに、現在日本からの食材・酒類新事業立ち上げ、現地企業に対しては、新規チャネル構築・プロモーションから、貿易フローや流通プロセスの最適化、物流拠点拡張プランニングまで、幅広くプロジェクトを手掛ける。
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