インタビュー

映画監督・齊藤工 ホラー・ミステリー映画『スイート・マイホーム』が北米プレミア公開

特別インタビュー

映画監督・齊藤工
ホラー・ミステリー映画『スイート・マイホーム』が北米プレミア公開

俳優として確固たる地位を築きながら、映画監督としても幅広く活動する齊藤工さんが監督を務める映画『スイート・マイホーム』が、「ニューヨークアジアン映画祭」の最優秀長編映画コンペティション部門に選ばれた。今回は北米プレミアのためにニューヨークを訪れた齊藤工さんに本作について話を聞いた。


小説現代新人賞受賞の注目作家・神津凛子のデビュー作『スイート・マイホーム』が遂に実写映画化。日本では今年9月に公開となる本作に先駆けて、先月20日にフィルム・アット・リンカーンセンターでプレミア上映が行われた。監督を務める齊藤工さんが登壇し英語で挨拶を披露した。一眼見ようと多くの来場者が集まったが、いざ上映が始まるというと、会場が緊張した空気に包まれた。

─監督として本作品のオファーがきた時、どんなお気持ちでしたでしょうか。

原作を実写するにあたり、どう表現することができるか不安がありました。原作はいわゆる「おぞミス」と言われる世にも悍ましいミステリーです。原作を読んでいる中で何度もページを閉じたくなるような凄惨な表現があり、活字でここまで表現されていると、活字を超えられることは無理だろうと、当初はお断りしました。

しかしその頃、パンデミックが始まり「ステイホーム」を求められ、僕も自宅にいるようになりました。

そんな状況の中、改めて台本を読み直してみると、自宅という一番安全で安心できる自分の聖域のような場所が脅かされるということが、どんなに恐ろしいことか考えるようになり、この作品を映画にする意味を見出すことができたと思います。

そして、実写にするのであれば生身の人間が起こす化学反応というものが、唯一小説では描けないものなので、主演の窪田さんを始めキャスティング、撮影スタッフに関しては柱になる人たちの参加を条件とし受けることにしました。

─過去に共演経験のある窪田さんと、今回は監督と役者という立場になりますが、改めて窪田さんとお仕事されいかがでしたか。

僕が窪田さんと共演経験がなかったとしても、今回のこの原作からして、必ず候補にあがってくる方だと思います。窪田さんが演じる主人公の、見捨てられない人間性や奥に見える欲などを滲ませてくれるところはさすがだなと思いました。彼の演技の魅力は日本映画にとどまらないと思います。後から知ったことですが、原作者の神津凛子さんは窪田さんのファンで、窪田さんを主人公に想定して描いた小説もあるそうです。どこか先生のイマジネーションの成分として窪田正孝という俳優がいたということに嬉しさを感じました。

─齊藤監督が映画を撮る上で大切にしていることは何かありますか。

現在、米国では映画俳優労働組合と脚本家労働組合によるストライキが行われていますが、日本でも映画業界は分岐点にきていると感じます。どうしても古い体制の方へ舵をきることが当たり前とされている現実があります…。随分前から予兆はありましたが、今は特に変化を求められていると思います。

配信や人工知能などで、確実にこれから様式が変わっていく中で、どういう現場を作っていく必要があるかという課題にこれから真摯に向き合っていかなければなりません。当然リスペクトトレーニングは大切にしていますし、スタッフの労働時間、食事の内容などにも気をつけています。僕が監督として関わる現場の食事には、オーガニック食材を始め、納豆やお味噌汁などの発酵食品を取り入れるようにしています。俳優をしている時も感じることですが、日本の現場は我慢をベースに作られている業態だなと思います。しかし、それが生み出すものって必ずしもよいものではないと思うんです。俳優もスタッフも何カ月も撮影に入ると、どんどん精神面でも体力面でも摩耗していきます。食事とクリエイティブって直結していると信じているので、理想は僕の現場に参加したスタッフは健康になっていく、と言ってもらえたらいいですね。構造的な変革は時間がかかることは承知なので、少しずつ変えることができればと考えています。

─もしマイホームを購入するならばどのような家に住みたいですか。

動物が住みやすい環境にしたいです。今はペットを飼っていなく、時々友人のペットを預かるくらいですが、動物が居心地よく過ごせる場所は「良い気」が流れていると思うんです。

 

 

齊藤工 Takumi Saito

1981年生まれ、東京都出身。俳優業の傍らで20代から映像制作にも積極的に携わり、初長編監督作『blank13』(2018)では国内外の映画祭で8冠を獲得。『フードフロア: Life in a Box』(2020)では、AACA2020(アジアン・アカデミー・クリエイティブ・アワード)にて、日本人初の最優秀監督賞を受賞した他、『バランサー』(2014)がオレゴン短編映画祭2020で最優秀国際映画賞受賞、『COMPLY+-ANCE』(2020)がLA日本映画祭2020でW受賞した。俳優としては『シン・仮面ライダー』、『零落』(2023)などに出演。


作品紹介

〈ストーリー〉冬は極寒の地となる長野県で愛する妻と娘とアパートで暮らす清沢賢二は、一軒のモデルハウスに心を奪われる。地下に配置された巨大な暖房設備によって家中が暖められるその家は、理想的な「魔法の家」だった。しかし新居に移り住んでから、賢二の周辺で次第に奇妙な出来事が起き始める。

【出演】窪田正孝、蓮佛美沙子、窪塚洋介、奈緒、吉田健悟、根岸季衣
【監督】齊藤工
【脚本】倉持裕
【原作】神津凛子
【公開】2023年9月(日本)
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