ニューヨーク仕事人名鑑

ニューヨーク仕事人名鑑 #52 五嶋龍 さん

困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。


7歳でコンサートデビューし、世界各国の名だたるオーケストラとの共演やCDリリース、日本でのクラシック音楽番組の司会など、世界的バイオリニストとして名を馳せてきた五嶋龍さん。彼の名を聞けば、「バイオリン」や「クラシック」というワードを思い浮かべる人が多いだろう。そんな彼が昨年夏、ここニューヨークで空手道場「日米武道館」を設立したことは大きな話題となった。幼少期から愛してきた空手への想いや道場の特徴など、バイオリニストではなく空手家、五嶋龍さんに話を聞いた。

コロナ禍に気づいた空手への想い

ニューヨークで生まれ育った五嶋さんは、小柄であり英語が得意でなかったことから幼少期にいじめを経験。それを跳ね返すべく打ち込んできたのが空手だった。「祖父の友人が空手の師範で、母が道場へ連れていってくれたのが始まりでした。週5日、問答無用の一見スパルタ式道場でした」。まさに礼儀を重んじ努力の精神を養い、人格を形成する指導だったという。「バイオリンの練習は嫌だと思う余裕もありましたが(笑)、空手の稽古にはそれがなかったんですよね。それでいて、まず勉強、バイオリンをしっかりしろ、次に空手だ、と言われていました。」と振り返る五嶋さんにとって、根底に愛情溢れる、故・森正隆師範の姿勢こそ今自分が目指すものだと言い切る。

その後バイオリニストとして頭角を表しその道の活動が主となっていた中、新型コロナウイルスが蔓延。コンサート活動が厳しくなり、自然と音楽と距離を置くこととなった。「コロナ禍で一番恋しく感じたのは、対面で空手の稽古する場がなくなったこと。ずっと心のどこかに音楽は僕の人生の最終的な道ではないという思いがありましたし、そんな中パンデミックになり罪悪感を感じずに音楽と離れることができ、本当にやりたかった空手にスイッチできました」。人と触れ合い共に心身を鍛えることに強い思いを感じた五嶋さんは、少人数の稽古から始め、いつしか稽古を牽引する立場となり、道場を設立するまでとなった。

「伝統」をモダンな指導法で継承

日米武道館の特徴を伺うと、「武道の本質を追求し、伝統に基づいた『本物』を教えています。ただ指導法は私が経験してきた古典的な方法ではなく、現代に合わせた指導をしています。ただ厳しくするだけではなく、楽しみを感じてもらうことが第一です。生徒それぞれ求めるものも違うので、集団稽古といえど一人一人に指導することを意識しています」と五嶋流のアプローチ法を語ってくれた。

現在は空手、柔道、ヨガの指導が主であるが、中国拳法やボクシングなどのゲストセミナーを招いたイベントも定期的に開催しているという。「空手は空手道場、柔道は柔道場…と分かれているのが一般的ですが、ここは武道だけでなく武道に関連する世界も広く深く知れる環境です。多くのオプションがある武道館を目指しています」

今後の展望については、「一人でも多くの人に武道の楽しみ、奥深さを感じてもらいたいです。そのためにはもっと道場を大きくしていきたいですし、指導者も増やしていきたいので、一緒に熱い思いを持って指導してくれる仲間も募集しています」と話してくれた。

五嶋龍さん

アーティスト

来米年: なし(米国生まれ)
出身地: ニューヨーク

好きなもの・こと: 伝統をモダン化する

特技: コミュニケーション

1988年生まれ。ハーバード大学(物理学専攻)卒業。わずか7歳でバイオリニストとしてコンサートデビュー後、世界各地のオーケストラと共演。空手は日本空手協会三段、米国空手道連盟三段の腕前。起業家としての顔も持ち、教育活動・社会貢献活動にも積極的に取り組む。

日米武道館: jabudokan.com

 

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