木を見て、森を見て、木として考えるコラム

<第14回>今一度考えたい、「セルフケア」 とはどういうことだろう?

ここ数年、年始から不穏な事象や悲劇的な出来事が伝えられる年が続く。2024年はまさに元日から、北陸の大きな地震のニュースで始まり、羽田での飛行機事故の速報が続いた。ジャピオン読者には日本に繋がりを持つ方々が多く、日本にいる大切な人たちが被害を受けた場合もあるのではないか、案じている。

そのほかにも、今までになかったほど大きなスケールで、社会的、政治的、または国際政治的に、心をざわつかせ疲弊させる事柄がいくつも報じられる。それは今に限ったことではないのに、インターネットが身近な時代を生きるゆえ、スケールをより甚大に感じるのかもしれない。

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一部のセルフケアが持つ消費主義と排他性に覚える違和感

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すると同時に、「セルフケア」という言葉もよく目に入ってくるようになる。「辛い時は、できる範囲で一旦何かをお休みして、自分を労りましょう」といったメッセージは、忙しなく生きる、むしろそう生きなくてはいけないかのように感じる日々の中で、ハッとさせるものがある。

ところが、そこから展開されるセルフケアの方法や実践の提案の一部には、違和感も覚える。例えば、「贅沢」なキャンドルや入浴剤や、「映え」なピラティススタジオやウエアなどが列挙されるのを見かける。あれ、セルフケアって、こんなに消費主義的なの? 「生産性」が極度に重視されるメソッドの紹介も多い。こういったどこか偏ったセルフケアのイメージが先行することによって、それを「する」か「しない」か、「できる」か「できない」かで、必然的に人々を分けていない?

そもそもセルフケアは、確かに「セルフ」を「ケア」することだけれども、自分自身だけで完結するものではないのだろう。かくいう私もかつては、セルフケアは「自分のストレスを自分でどうにかする(ケアする)こと」だと思っていた節がある。それゆえに、セルフケアをなかば敬遠していたのを覚えている。しかしそれでは、自分の散乱した思いやストレスは放ったらかしのまま。それじゃよくないよな。そこで、自分で自分自身に声をかけ、手に負えなくなる前にざっとでもいいから頭や心の中を整理し、自分が求めているものを理解することの習慣化からセルフケアは始まるのだろうな、と感じるようになった。

それ自体は今も大筋変わっていない。だけれども、いざ自分が抱えるストレスと向き合おうとすると、個人だけでそれを解決するのはどう考えても不可能だという壁にぶち当たった。消費や生産性向上からは一過性の喜びは得られども、持続可能ではない。各個人が己のケアにこつこつと取り組むだけでは、もっと大事なものを見落としてしまう。他者と自分の間にバウンダリーを引き、それぞれの空間を保つのは大切であると同時に、未来をよくする活力には、一人ひとりが持つ社会の一員としての視点やそこから生まれる他者との連帯が、欠かせないのだから。

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セルフケアこそ、みんなのものでなくては

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私たちが個人的に抱えるストレスや弊害の多くは、外因的というか、社会的だったり政治的であることの認識が、セルフケアにおける重要なエレメントであるということ…これは忘れてはいけないと思う。目の前のストレスの向こうにある、不均衡や格差、不条理や不正義…こういった歪みを生む、大きくて圧倒的で一人ではとても歯向かえなさそうなあれやこれがあるから、私たちはなにかしらの形で苦しめられる。

それにもかかわらず、セルフケアまでもが「する」者や「できる」者のを中心に存在意義が保たれるようになってしまっては、またしても歪みを生み、本末転倒になってしまう。だから、セルフケアがあたかも個人の力量で実現できるかのように伝わり、まるで競争のようにもなりかねない状態に、私は強い違和感を抱くんだ。セルフケアこそ、みんなのものでなくては。そうすることで、やっとそれぞれにとっての自分の労り方が見えてくるはず。

「木を見て、森を見て、木として考える」ことも、きっとセルフケアのあり方の一つだと私は思っている。そしてこうやってそれを文字にし、読まれることで、何かが共有できるということも…。本年も引き続き、どうぞよろしくお願いします。

 

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

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