巻頭特集

今年のセントパトリックデーはアイルランド文化を探索しよう

3月17日(日)のセントパトリックデー(Saint Patrick’s Day。以下:聖パトリックデー)が近づくとニューヨークの街中が緑色の装飾で活気づく。一足先に春の芽吹きを感じさせるこの記念日は、アイルランドの血を引く人にとっては「盆暮れ」と同じくらい大事。大人も子供も大はしゃぎでパレード見物やアイリッシュパブに出かける。聖パトリックデーとアイルランド魂の真髄を紹介する。(取材・文/中村英雄)


聖パトリックの偉業を讃える日

ニューヨークでこれだけ騒がれる聖パトリックデーだが、日本人はその由来や意味などをよく知らない。ニューヨーク・アイリッシュ・センターのジョージ・ヘスリン所長がジャピオン読者のために解説してくれた。

聖パトリックデーはどのような意味を持っていますか?

アイルランド人にとってもアイルランド系米国人にとっても、大事な祝日です。先祖から継承した伝統を祝い、アイルランドの素晴らしい音楽やダンスや食べ物そして何よりも破天荒な「お祭り騒ぎ」を世界中に伝える日です。

─お祭りで祝福される聖パトリックとはどのような人物なのですか?

5世紀に活躍した実在のイギリス人で、若い頃にアイルランドの海賊にさらわれ、奴隷として苦しい時期を過ごしたらしいです。脱走した後にヨーロッパ大陸で神学を学び、イギリス帰国後に「自分を虐待したアイルランド人にキリスト教を伝道する使命を与えられた」と決意。今度は聖職者としてアイルランドに渡りました。聖パトリックこそがアイルランド各地に教会や修道院を建設し、多くの人々にキリスト教を広めた人なのです。同時に、アイルランド中のヘビを退治したそうですよ。

─聖パトリックが以前のアイルランドは、野蛮で蛇だらけだった(笑)というわけですね。なぜシャムロック(クローバー)の葉がシンボルなのですか?

聖パトリックが布教した時、キリスト教が唱える三位一体(父、子、聖霊)の考え方を、シャムロックの3枚の葉に例えたからです。

─アイリッシュセンターの目的、活動内容について教えてください。

当センターでは、社会福祉活動、文化・教育プログラムを通じて、アイルランドの文化を共有し、ひいてはあらゆる人種や文化の協調を目指します。

─ニューヨークのアイルランド系コミュニティーについて教えてください。

この街の市民の5・3%が、祖先がアイルランド移民だと主張しています。かつては、主に貿易関系や公務員として働いていたアイリッシュですが、今日のアイルランドは世界で最も急速に経済成長している国の一つです。国民のほとんどが高学歴の現在、ニューヨークに渡るアイルランド人は、金融、ハイテク、マーケティングなど、20世紀の先人たちをはるかに超える分野で働いています。

─アイルランド系ニューヨーカーは聖パトリックデーをどのように過ごすのですか?

ほとんどの人は、お祭りの当日はマンハッタン区に向かい、5アベニューで行われるパレードを見物します。パレードでは、アイルランドの「県人会」グループやバグパイプと太鼓のバンド、ミュージカルのパフォーマー、アイリッシュダンサーなどが行進します。パレードの後は、街中のアイリッシュパブに繰り出して伝統音楽のライブを楽しんだりアイルランド料理に舌鼓を打つのが習わしです。

40 Shades of Greenについて教えてください。

今年で3回目となる同センター主催の聖パトリックデーイベントです。40人以上のパフォーマーを招き、6時間に渡るカルチャーキャバレーを開催します。ニューヨークでも他に例がないイベントですよ。豊かなアイルランド文化の全てを前向きに讃えるプログラム、と考えています。今年はシンガー、ミュージシャン、ダンサーなどが参加し、アイルランド人とアイルランド系米国人の才能をいかんなく披露します。

 

<お話を聞いた人>

ジョージ・ヘスリンさん

NYアイリッシュ・センター所長

ダブリン(アイルランド)のトリニティカレッジ演劇科を卒業後、渡米してニューヨークのブロードウェーで活躍。大小80以上の舞台演出を手がけたほか、母国アイルランドやイギリスの劇場でも作品を多数発表。一貫してアイルランド系米国人の舞台芸術を積極支援。2011年にはオバマ元大統領からホワイトハウスへの招待を受けた。

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1255

夏の和野菜

盛夏のニューヨーク。色鮮やかな野菜たちが街中に溢れ、目を奪われるが、私たち在留邦人はどうしても和野菜が恋しい。実は、よく探せば、こんなアウェーな土地でも本格的な日本の野菜が手に入る。グリーンマーケットや野菜宅配サービスの賢い利用法など、今回の特集ではとっておきの和野菜情報をお届けする。