木を見て、森を見て、木として考えるコラム

<第1回>インフラの一つと言える公共図書館が、予算削減の危機に

私は、図書館が好きだ。三度の飯より好きかはわからないけれど、週に三度は通う。生活と勤務の形態から時間に融通が効き、日英の二言語を目で読める私は、図書館を楽しむ。

けれども、図書館利用者は私のような人ばかりではない。

ニューヨーク市の公共図書館は、開館時間拡張、言語サポート、障害者対応など、より多くの人に門戸を開くよう努めている。

図書館では、料理や裁縫などのワークショップや、物々交換会、社会正義の勉強会などが開催される。幅広い地域住民が参加する。写真提供: Greenpoint Library

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図書館は
みんなのもの
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そもそも公共図書館というものは、インフラの一つだと私は考える。地域住民、なかでも、移民や障害者、貧困家庭やシングルペアレント世帯、独り身の高齢者など、不可視化されやすい存在にとって、根幹的な役割を果たすからだ。

経済状況や身体的理由などから読書へのアクセスが限られる人々に、「知と娯楽」を用意する。居場所を求める人々に、「空間と交流」を供給する。越したばかりで街に不慣れな人々に、「地域の情報」を提供する。物価や生活コストが上昇するさなか、その意義は計り知れない。

ところが、だ。今、ニューヨーク市の公共図書館は、危機に瀕している。市が、公共図書館の予算を今期と来期あわせて市全体で3千6百万ドル削減すると発表したのだ(6月現在)。このままでは、開館時間の短縮は必須。ほかにも、英語をはじめとした語学教室、料理やパソコンの講習、履歴書の書き方や家賃交渉の勉強会といった、参加型イベントの縮小も検討される。そして、所蔵物展開の拡大や、地球環境対策の先導や啓蒙など、未来のための計画も白紙に戻さざるを得なくなるかもしれない。

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図書館の繁栄と、移民の住みやすさは、地続きでは?
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昨今ニューヨーク市に辿り着いた多くの移民とその対応は、市民の関心を集めている。市長は概ね積極的に受け入れる姿勢だが、課題は経済負担のようだ。

行政予算は私には理解が困難だけれど、この支出が図書館予算削減に影響している可能性は、ゼロではないかもしれない。とはいえ、お金をかけて移民対応を進める一方で、その人々がこの街の生活に慣れていく手助けとなる図書館の資金は、削られてよいのか。より多様化し拡大していくさまざまなコミュニティーの居場所を奪い兼ねる決断は、長い目で見て正しいのか。図書館の繁栄と、移民の住みやすさは、地続きな気がするのに…。

「多様なコミュニティーを繋ぐ」──これはニューヨーク市の公共図書館の運営理念だ。市内のほかの地区も似たように、「コミュニティー」「繋ぐ」ことを念頭に置く。

私は、経済的にも身体的にも言語的にも、図書館をもっとも必要とする層にはいない。それでも図書館は、もっと本を読もうと促してくれるし、米国では入手しにくく高価な日本語書籍を借りるたび、深いありがたみを感じる。最近は、地元図書館の市民運動を通して、地域の結束も実感している。

「もつ特権」を認識しつつ、移民で言語ディアスポラの一部であり、かつこの地域の一員である自分にとっても、図書館の「繋ぐ」役割はいか様にも広がり、絶大だ。ジャピオン読者にも、忙しい親が安心できる居場所を子どもにもたらしたり、価格が高騰するカフェより通いやすい仕事場や自習場所になったり、自身と似た状況の人たちと出会えたりと、重要性を感じる人々はいるのではないかな。そう、公共図書館は地味なようで、すごい場所。

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一緒に立ち向かうことで感じられる、「図書館が繋ぐ多様なコミュニティー」
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予算の修正要求は、どうやら難航しているらしい。それでもなお、私たちは声をあげ続けられる。各地域の図書館で、市長向けの予算見直し懇願書送付や、寄付の案内のウェブページを特設している。

インフラとも言える図書館へのリスペクトを、利用者や地域住民である私たちは示すことができるのだ。すると、たとえ困難であっても一緒に立ち向かうことで、「図書館が繋ぐ多様なコミュニティー」を、ここでも感じられる…。うん やっぱり私は、図書館が好きだな。

 

 

 

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。
ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。
ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

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