木を見て、森を見て、木として考えるコラム

<第26回> グリーンポイントに6年住んで、思うこと

ブルックリン区グリーンポイント地区に住み始めて6年と少し。ニューヨークに移住したのは11年前なので、半分以上の時間をここで過ごしてきたことに気づく。ゆるっとしつつひとクセあるコーヒーショップやバー、古着屋などが並び、そして小ぶりながら開放的な公園が多いそののどかな雰囲気が気に入っている。

クイーンズ区南部とブルックリン区を縦につなぐGライン沿線のこのエリア。地図上ではイーストリバーを挟んで目と鼻の先のマンハッタン区には、乗り換えをしないと出られない。そのちょっとした不便さゆえ、目まぐるしい速度で開発が進むウィリアムズバーグ地区とロングアイランドシティー地区に挟まれつつも、ここの変化は若干ゆっくりしているのかもしれない。

とはいえ私が住む6年の間だけでも、川沿いの高層集合住宅ビルはかなり増えた。こういった紋切り型の高層建物は、ニューヨークに限った話ではないが、景観の個性を奪っていく。すぐ近くにある、既存建築物解体や新規建設が制限された歴史保護地域との差が際立つ。

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リトルトーキョー?

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グリーンポイント地区には、19世紀終わりから20世紀初頭にかけて、ポーランドからの労働者が移り住み集落を形成した歴史がある。今もポーランド系の住民、家族経営商店やレストランが多い。

それと同時に、最近は日系のユニークなスモールビジネスが次々とオープンしている。昨年、ニューヨークタイムズが同地区を「リトルトーキョー」と呼んだのは印象深かった。鋭い着眼点であると同時に、ポーランド系住民はどう感じるか想像し、個人的にはヒヤヒヤしてしまったものだ。

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地域の環境問題と、闘ってきた住民たち

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さして大きくなく、人と人との距離が近いように感じる同地区に住み、ローカルな会合やワークショップに参加するようになった。すると、地域のさまざまな問題と、そのために闘ってきた人々の存在を知る。

例えば、私が通い、ボランティアをしているグリーンポイント図書館。数年前に建て直し再オープンしたこの図書館の建設と運営の背景には、大手石油会社との闘いがある。発端は、70年代に発覚した、近隣の貯蔵施設からの長年に渡る石油流出。その規模は全米最大級と言われ、周辺の土壌や地下水、空気が汚染され、住民や野生生物に健康被害をもたらしたそうだ。

住民が石油会社数社に対し集団訴訟を起こし、大規模清掃に加え、和解として地域環境改善や住民の生活向上のための資金を得た。これにより、同図書館は環境に配慮した構造で再建され、地域の環境教育センターも兼ねる。

かつては工業地帯だったグリーンポイント地区には、環境保護庁(EPA)にスーパーファンド指定されたスポットもある。その一つに、有害化学物質の土壌への漏出と地下水汚染を引き起こした、20世紀中頃にプラスチックを製造していた工場がある。地元の複数環境団体が立ち上がり、住民に説明会を開き、議会に訴えた結果、EPAによる大規模汚染除去作業が進められた。環境団体は、それが適切に行われているかの監視役割も果たす。

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住民として、知り、参加する機会

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環境問題以外にも、道路などのインフラ、高騰する住宅価格などの諸問題について、啓蒙と話し合いの場がある。例えば、賃貸契約に明るい弁護士が家賃釣り上げや立ち退きを法の観点から説き、交渉について学べるワークショップが図書館で開催された時は驚いた。そういった機会が無料で提供されるのだ。

ふと、川沿いに建設中の高層集合住宅ビルを眺める。これから入居する人々の中には、どこかからやってきて、数年の内にまた違う場所に移っていく場合も多いだろう。その人たちは、危険物による汚染や、住宅価格高騰に苦しむ地域の問題を知るチャンスはあるのだろうか。

グリーンポイント地区は、ゆるおしゃれカフェやポーランド料理、日系ショッピングばかりではない。私自身も地域とより近づき、知る必要があるし、その機会があるということがもっと広まっていくべきだと感じている。

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

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