巻頭特集

『くるみ割り人形』を観に行こう!

<インタビュー>

ボストンバレエ団 プリンシパル 

大賀千沙子さん

2019年からボストンバレエ団に在籍している大賀千沙子さん。さまざまな経験を通して今の地位に辿り着いた彼女に、バレエの魅力について話を聞いた。

身長が理由でどん底から幸運を掴む

15歳でローザンヌ国際バレエコンクールに出場し予選を通過。奨学金でサンフランシスコバレエ学校の研修生となった千沙子さん。順調に進んでいたと思いきや、ある日、人生のどん底に突き落とされてしまったそうだ。

「研修生からバレエ団の一番下のランクで入団したのですが、契約は1年ごとの更新。当時19歳だった私は、翌年の契約を更新されませんでした。理由は身長が低かったからです。欧米人に比べるとアジア人は背が低い人も多く、技術面であれば修正できると思ったのですが、身長が理由と言われてしまうとどうしようもなくて…。本当に辛かったです」

当時、『白鳥の湖』の公演中だったという。

「目を腫らしながら白鳥を演じたことを覚えています。これからどうしていけばいいのか、先行きも不安でした。そんな時、シンシナティーバレエ団で身長の低い男性プリンシパルのパートナーを探しているという話を聞き、オーディションを受けたところ採用になりました。その後、直ちにプリンシパルにも昇格できて、人生何があるか分からないですね。辛い経験も今では必要だったのだなと思っています」

作中でさまざまな役を演じ分けることも魅力

今年の『くるみ割り人形』の公演では、主人公のクララ以外にも金平糖の精、雪の女王、花のワルツのソリストを演じるという千沙子さん。

「バレエ団のミッコ・ニッシネン芸術監督のおかげで、入団1年目からクララを演じました。その後、金平糖の精役も演じることになり、対照的なキャラクターのため、演じ分けることに最初は苦労しました。一日に昼はクララ、夜は金平糖を演じることもあります。クララはクリスマスのプレゼントを楽しみに待っているピュアな子供。一方、金平糖は気品のある役なので、力強さと華麗さ、腕の使い方一つ一つの動きも大切にしています。衣装にも助けられるところはありますが、冠をつけるだけでも気持ちは変わりますね」

バレエと初めて触れ合う機会が『くるみ割り人形』という人も多い。

「ぜひクララの目線になって、自分の子供のころを懐かしく振り返ってもらいながら見てほしいです」

 

同作で雪の女王や金平糖の精を演じる千沙子さん(Photo by Liza Voll;courtesy of Boston Ballet)

 

ライバルでもあり良き友人でもある仲間たち

2019年からはボストンバレエ団へ移籍。現在は最年少のプリンシパルとして活躍している。

「プリンシパルはバレエ団の一番上のランクのため、辿り着いてしまうと満足してしまう人もいるかもしれませんが、私自身はまだまだだと思っています。プリンシパルには、40歳のベテランダンサーもいたり、さまざまな国の人がいて、皆、素晴らしいダンサーばかりで毎日刺激を受けています。ライバルでもありますが、このバレエ団で良い仲間と一緒に踊れることはとても幸せだと思っています」

今後の目標は?

「ボストンに移って1年目でロックダウンになり、公演あってのバレエ団なのにとても苦しい時期でした。スタジオに行って踊ることがバレエダンサーにとって全てなので、それがなくなったことは本当に辛かったですね。その間に、バレエ団が提携している大学に奨学金で通い始めて現在3年生になりました。母からも『第二の人生も大事。勉強は頑張りなさい』と言われていたので、バレエと大学を両立しています。これからあと10年以上は踊り続けられると思うので、どう毎年成長できるか、次のレベルに進めるか、パーフェクトを追求しても100%満足できることはないですが、それに近づけるよう学べるものを全て吸収しながら、きれいな白鳥になれるように頑張りたいです!バレエ団の人々のサポートも手厚いので、このままボストンに居続けられるといいなと思っています」と楽しそうに語った。

大賀千沙子(Chisako Oga)

テキサス州・ダラス生まれ。15歳の時にローザンヌ国際バレエコンクールで予選を通過。その後、サンフランシスコバレエ学校で奨学金を得て研修生に。2016年、シンシナティーバレエ団に入団後、すぐにプリンシパルへ。19年からボストンバレ団に入団。セカンドソリスト、ソリストとしてさまざまな演目を演じ活躍。今年からプリンシパルに昇格した。

 

 

Photo by Liza Voll;courtesy of Boston Ballet

 

ボストンバレエ団の『くるみ割り人形』は熊の着ぐるみが出てくるのが特長

 

Boston Ballet

【公演日】12/31(日)まで

【会場】Citizens Bank Opera House(539 Washington St., Boston, MA 02111)

【WEB】bostonballet.org

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1255

夏の和野菜

盛夏のニューヨーク。色鮮やかな野菜たちが街中に溢れ、目を奪われるが、私たち在留邦人はどうしても和野菜が恋しい。実は、よく探せば、こんなアウェーな土地でも本格的な日本の野菜が手に入る。グリーンマーケットや野菜宅配サービスの賢い利用法など、今回の特集ではとっておきの和野菜情報をお届けする。