巻頭特集

寒い夜にはオーブン料理

国連職員が自宅のオーブンで毎週パンを焼く理由(ワケ)

世界中で戦争が絶えない日々が続き、ニューヨークの国連本部は未曾有の数の難題に忙殺されている。そんな中、黙々と自宅のオーブンでパンを焼くのが経済部職員のヨハネス・ハウスマンさんだ。4年ほど前から毎週パンを焼き始め、一度も休んだことがない。パン作りはヨハネスさんの日課であり、存在であり、幸福に不可欠な一部だという。

きっかけは、日本人の妻がプレゼントしてくれた一冊の本。チャド・ロバートソン著『タルティーヌ・ブレッド』。サワードウの種類から田舎パンとライ麦パンを選び、レシピもアプローチも本の通りにした。あえて冒険や個性を探求するパン職人を気取るつもりはないという。

毎朝、スターターに餌をやり、週に一度、日曜日に田舎パンを2つ、翌週はライ麦パンを2つといった具合にパンを焼く。「私にとって最も大事なことは、毎日スターターに餌を与え、パンを焼くというプロセス。そのプロセスに人生を左右されることなく、私の日課の自然な一部とすることです」と静かに話すヨハネスさん。

オーブンで一番大切なのは、十分な時間をかけて、パン焼き鍋を入れたまま焼き上がり温度以上(500°F)に予熱することだ。鍋は一旦取り出し、発酵の完了した生地を入れるのだが、鍋を戻すためにオーブンを開ける時、温度はちょうど焼成適温の450°Fまで下がる。鍋の質はあまり関係ない。安い鋳物の鍋と、お洒落だけど古くて欠けたホーローのダッチオーブンを使っているが、どちらでも同じようにうまく焼けるという。「オーブンは私の最高のパートナーで、発酵中の小さな欠点をいつも補ってくれます。生地の発酵に過不足があってもオーブンがそれを補正してくれて、必ず正しい大きさのパンが焼けるのです」

焼き立てパンが与える達成感

ヨハネスさんはオランダ人。父は大工で、手を使って物を作っていたが、自身はずっと事務職だった。自分の手で物を作ることは、精神にも身体にも良いことだとますます実感している。「シンプルな材料から作ったパンが、オーブンから美しく焼き上がって出てくる瞬間、とてつもない達成感と喜びを与えてくれます」。小麦粉、水、塩、そして熱。それだけでは何の変哲もない材料が、一緒になって、そして人間の手を借りて、美しいものに変身する。

「私には家具を作ったり、ピアノを弾いたり、絵画を描いたりする才能は全くありませんが、パンを焼くことはできる。オーブンから出たばかりのパンに耳を近づけると、パチパチと音がするんです。その光景と音…そしてその後、日本人の妻が、まるで生まれ故郷の静岡で幼い頃からそうしてきたかのように、オランダチーズを乗せたパンを食べているのを見ると、私はとても幸せな気分になります」と国連職員ヨハネスさんは目を細めた。

パン作りは集中力と根気を要する。週末の朝に焼き立てを食べられるよう周到に計画して準備する。故郷オランダの町のパン屋がいつも疲れた顔をしていた理由がよくわかるという

 

ヨハネス・ハウスマン

国連本部財政部勤務。国連開発計画(UNDP)と、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を経て2002年から国連本部に勤務している。エルサルバドル、ブータン、ボスニア、イラク、ラオス、パナマに駐在。

 


オーブン料理をするのが楽しくなる調理器具

 

フランス生まれのキッチンウェアブランド

ル・クルーゼ

フランスの北部の小さな村フレノワ・ル・グランでつくられるル・クルーゼの鍋シリーズ。中でもシグネチャーココットと呼ばれる大きめのホーロー鍋は煮込みから炒め物、オーブン料理、パンも焼けて幅広い料理に活用できる。熱が温度の高いところから低いところに移動する「熱伝導」と、熱を蓄える「蓄熱性」に優れているため、食材に「ゆっくりと均一に火を通す」ことができる。煮崩れを防いで素材の甘さなどをより引き出してくれるのが魅力だ。

●オススメの簡単オーブン料理

フレンチ・オニオンスープ:スープの仕上げにも欠かせないオーブン。調理したスープの上にスライスしたバケットとスイスチーズを振りかけて425℉で10分程焼き、チーズが溶けてグツグツしたら完成。

シグネチャー・エナメル・キャストアイロンオーブン

サイズ: 7( 7〜8人分用)460ドル

williams-sonoma.com

 

 

創業120年・米国を代表する鋳鉄フライパン

ロッジ

1896年、テネシー州サウスピッツバーグで、ジョセフ・ロッジの手によりロッジのキャストアイロン調理器具が誕生した。以来、4代にわたり受け継がれ、米国のNo.1キャストアイロンメーカーに成長。同社の商品はダッチ・オーブン、スキレット、グリドルをはじめエナメルコーティングの鋳鉄鍋など種類は150以上にもなる。

●オススメの簡単オーブン料理

丸ごと鶏肉のロースト:ホールの鶏肉に下味をつけてローズマーリーやニンニク、じゃがいも、玉ねぎ、人参などの野菜を添えオーブンで425℉の温度で1時間半程焼く。

キャストアイロン

サイズ: 15インチ   59ドル95セント

lodgecastiron.com

 


家庭で高級レストランの味

料理する時間がない! という人は、今話題のスーパー・ウェグマンズが提唱するオーブンを使った「ゴールド・パン」をトライしてみては? 同店が独自に開発した熱伝導の良い特殊トレイにのった魚や肉、野菜などをラップに貼られた指示書通りの温度設定と時間でトレイごとオーブンに放り込んだらあとは待つだけ。提携する一流イタリアンやフレンチのシェフが設計したレシピだけに、味は保証つきだ。

「タラのレモンバターソース焼き、アーティチョークとホウレン草添え(15ドル)」。

肉厚のタラがしっとりと柔らかい仕上がりに

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