プロスポーツから見る経営学

第93回 プロスポーツリーグ考察

プロスポーツにおける戦力均衡の必要性

近年、Jリーグが欧州主要リーグに合わせてシーズン制を移行する動きが話題となっています。これにより、プロスポーツリーグの形式とそのビジネスモデルに対する関心が一層高まっています。プロスポーツリーグは、選手やクラブだけでなく、スポンサー、ファン、地域社会に至るまで広範な影響を及ぼす重要な存在で、リーグの形式と制度設計は、その発展と成功において重要な役割を果たします。今回は、オープンリーグとクローズドリーグの特徴とビジネスモデルについて中立的な立場から考察していきます。

必要な戦略モデルとは

プロスポーツリーグは、所属するクラブが競技を通じて互いに競い合いながらも、ビジネスパートナーとして協力してリーグ全体の拡大を図るという独特の関係を持っています。これは、スポーツ特有のボラタリティー(変動性)へのアプローチと管理においても重要です。戦力均衡、選手年俸の高騰、地域格差などの課題に対処しつつ、ビジネス戦略を策定するために、リーグの形式は重要な要素となります。

オープンリーグは、クラブチームが成績に基づいて昇格や降格を行うリーグ形式です。シーズンごとの成績により、クラブの所属するリーグが変動し、この形式は主に北米以外のプロスポーツリーグで採用されています。オープンリーグの特徴として、成績上位のチームは上位リーグへの昇格が可能であり、下位チームは下部リーグへ降格する点が挙げられます。昇格や降格がかかっているため、全試合が高い緊張感と興奮を生み出します。しかし、成績によってリーグが変動するため、クラブの予算計画が不安定になる可能性もあります。

一方で、クローズドリーグはチームがリーグ内で固定されており、成績に関わらず昇格や降格がない形式です。リーグのメンバーは安定しており、新規参入や脱退が管理されます。昇格や降格のリスクがないため、チームは長期的なビジネス計画を立てやすく、経営基盤を固めることができます。また、新しいチームがリーグに参入するには特定のビジネス条件を満たす必要があり、財政面での安定性が求められます。ただし、昇格や降格がないため、試合の勝敗に対する熱量がオープンリーグに比べて低くなる可能性があり、これを補完するために、プレーオフシステムなどが導入されることがあります。

地域創生と興行収益

欧州では、スポーツは地域の人々が集まる場として始まりました。初期は会費制で運営されていましたが、次第に地域や街への誇りを象徴する存在として発展しました。このため、クラブ同士の試合はしばしば「代理戦争」と称されることもあります。例えば、スペインのサッカークラブの多くはソシオ制度を採用しており、クラブの所有者は地域の会員です。

欧州から米国にスポーツが渡ると、異なる社会背景のため、地域密着型の運営から興行主によるビジネスモデルへと変化しました。米国では、ファンはチケットを購入して試合を観戦し、チームは興行収益を重視する形で発展していきました。例えば、北米のプロスポーツではフランチャイズ制を採用しており、クラブの移転もビジネスの一環として行われます。これにより、各クラブは地域ごとの市場を最大限に活用し、収益を上げることが可能となります。

リーグ形式はオープンかクローズドの二択に限る必要はありません。ハイブリッド形式も存在します。新しいリーグの初期段階ではクローズドリーグを推奨し、リーグの安定と成長を見計らってオープンリーグに移行するハイブリッドの可能性も考えられます。例えば、USL Super League将来的にクローズドからオープンリーグへの移行を予定しています。さらに、NWSLやMLSのように、シングルエンティティシステムを採用しているリーグもあり、チーム間の競争を維持しつつ経営の安定性を図る工夫が見られます。

リーグの基本形を補完するために、ドラフト制度やサラリーキャップ、リーグ分配金などのルールも存在します。これらは、スポーツのボラタリティーをどうコントロールし、ビジネス拡大に繋げるかを考える上で重要です。例えば、ドラフト制度は、新しい才能を公平に分配することで、リーグ全体の競争力を保ち、各チームの戦力均衡を図っています。

オープンリーグとクローズドリーグには、それぞれに独自の利点と課題があります。ハイブリッド形式も存在し、それぞれの利点を組み合わせて最適なリーグ運営を模索することが可能です。最終的に、どの形式が適しているかは、リーグのビジョンやビジネスモデルに大きく依存します。各リーグがどのような方向性を目指し、どのようなビジネス戦略を採用するかによって、最適な形式は異なるでしょう。ビジネスの成功とスポーツの発展を両立させるために、リーグの形式選びは慎重に行われるべきです。

 

中村武彦

青山学院大学法学部卒業後、NECに 入社。 マサチューセッツ州立大学アマースト校スポーツマネジメント修士課程修了。メジャーリーグサッカー(MLS)、FCバルセロナなどの国際部を経て、スペインISDE法科学院修了。FIFAマッチエージェント資格取得。2015年にBLUE UNITED CORPORATIONを設立。東京大学社会戦略工学部共同研究員や、青山学院大学地球社会共生学部非常勤講師なども務める。

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