レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 Easy Rider

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


ミュージカル舞台の全米ツアーに2回も参加したおかげで、アメリカ合州国は49の州に訪れることができた。バスに乗って地方の中ぐらいの街を一つずつ公演をしながら2年間に渡って旅をした。

体力も精神力も試されるキツい旅だったが、振り返ると本当に楽しかった。ある時はインディアナ州から1日でテネシー州、ナッシュビルまで移動した。寒くて長くて雪ぐらいしか見るものがない冬の中西部を3カ月ほど回っていた後の南部の街だったので、その気候の穏やかさと文化の違いに驚いた。食べ物もおいしくて街には音楽が溢れていた。

行った先々では宿泊先のホテルで食事をせずに街に出て、地元の人たちに囲まれて必ずその土地で醸造された地ビールを飲むことを心掛けた。

サウスウェストでは乾いた何もない大地に続く一本道を、地平線に向かってただひたすらに走り続ける。空の青と大地の黄土色以外の色は何もない。はるかかなたの灰色の雲から灰色のカーテンのようなものが大地に向かってゆっくりと降りてゆくのが見える。数百キロ彼方のユタ州で雨が降っているのだ。

冬のノースダコタ州ではホワイトアウトという気象現象に遭遇した。バスから見る窓の外は一面の白一色で地平線も道路も1メートル先でさえ見えない。この世の終わりかと思った。この土地よりもさらに北にもう一つ人が住む国があるなんて想像もできない。

楽しいことばかりではなかった。ジョージア州ではあからさまな人種差別を受けたし、ノースカロライナ州では先に行った仲間が待っている地元の店に向かうのに、寒かったのでダンサーの女の子と2人で腕を組んで歩いていた。するとバーのドアを開けた瞬間にカウンターの男たちが一斉に振り返った。肩を寄せ合っている白人の女性とアジア人の男の僕たち2人に向けられた敵意むき出しの視線は一生忘れることはできないだろう。

アメリカは広大だ。ニューヨークに慣れていると、同じ国とは思えないほどの文化の違いを肌で感じることになる。時には楽しく、時には死を身近に感じるほど危険に。

 

 

米国のシビアな現実

そんなシビアなアメリカの現実を今回の映画は50年以上前に初めて描いたと言っていいだろう。カスタムされたハーレーダビッドソンに乗ってカリフォルニアからルイジアナ州ニューオーリンズを目指して旅する2人のヒッピーが、旅先で遭遇するさまざまな人間模様とアメリカの現実。

ヒッピーコミューンでは家族のように迎え入れられるが、地元の警察にはささいなイチャモンをつけられ投獄される。留置所で出会ったアル中の弁護士に救われて出獄できたのもつかの間、野宿していたところをよそ者を憎む地元民に寝込みを襲われて袋だたきの目に遭う。

ピーター・フォンダとデニス・ホッパーがこの映画を制作費4000万円で作り、60億円の収益を上げたことで、映画スタジオと配給会社が映画界を牛耳る時代が終わり、その後に続く映画監督の時代が幕を開けた。彼らの情熱のおかげで今でも僕たちのようなインディー監督が挑戦を続けられている。

あれから50年経ち、アメリカは理想に向かって前進した。そして2016年から20年の4年間で再び50年後戻りした。彼らの情熱と功績を無駄にしないためにも、僕たちは立ち上がってまた前に進み続けなければならない。

 

 

 

 

今週の1本

Easy Rider
(邦題: イージー・ライダー)

公開:1969年
監督: デニス・ホッパー
音楽: ザ・バンド、ステッペン・ウルフ他
出演: デニス・ホッパー、ピーター・フォンダ、ジャック・ニコルソン
配信: Apple TV、Amazon Prime他
自由と平和を求めてアメリカ横断の旅に出た2人の若者が、南部で偏見・恐怖・憎しみに直面する姿を描く。
映画史に名を残すロードムービー。

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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